組込みエンジニアとお風呂とユースケース
私は長年、組込み開発に従事してきたベテランエンジニア.Tと言います。組込み開発を中心に、ソフトウェアエンジニアはどうあるべきか、など、日頃考えている事や感じた事をとめどなく書いてみようと思います。
お風呂のトラブル
数年前に洗面所と風呂を改築しました。改築前の風呂は、何も考えずにほったらかしだったため、ユニットバスのつなぎ目にカビや汚れが溜まっていました。
それで、改築後はもっと大切に使おうと思い、カビ発生を防ぐために週一に給湯器の温度設定を最高(一般的には60度程度でしょうか)にして浴室全体にお湯を掛けていました。
トラブル箇所を突き止めた!
そうこうする内に、時々ユニットバスの折り戸(メーカーによるこれも「障子」というそうです)の外側に水溜まりができているではないですか。最初の頃は、何処から水漏れしているのかわかりませんでしたが、いろいろ試してみると、どうも熱湯を折り戸の内側から掛けた時に漏れることが分かりました。
製品の個体差による初期不良または、製品そのものの瑕疵を疑いましたが、少しばかりの水漏れなら気を付ければ良いので、暫くほおっておきました。
そのまま2年ほど過ぎた頃、製品の瑕疵ならそろそろ改善されているかも、と思い、改装をお願いした工務店に水漏れの事実を伝えて修理をお願いしました。
メーカーを巻き込んだドタバタ劇
暫くして工務店の担当営業が不具合を確認して、メーカーに修理できるか問い合わせしてくれました。その時のメーカーの対応からドタバタが始まったのです。
工務店担当営業とメーカーのサービスエンジニアが連れ立って再び来訪し、不具合の内容を確認しました。私は、給湯器の最高温度の熱湯を折り戸に掛けた時にお湯漏れする、と最初から説明しているのに、エンジニアは折り戸が壊れて枠の隙間から水漏れを起こしている、と思っていたようです。
担当営業にした説明と実演を今度はエンジニアにしなくてはいけなくなりました。
来訪したエンジニアは、不具合の内容を確認したにもかかわらずメーカーとしての通り一遍の説明をしただけで、私が指摘している不具合に対する回答はできませんでした。その一方で、瑕疵も認めず持ち帰って検討すると言い残して帰っていきました。
暫くして、そのサービスエンジニアが再訪しました。当然、不具合の原因と対処の報告があると思っていたのですが、何とまたメーカーとしての建前を言うだけです。そのエンジニアが言うには、開発エンジニアからの報告で、通常のお湯を流す程度では漏れることはない、ということだけでした。私の方から給湯器の最高温度で試験したのか、と質問していたのですが、まともな回答はありませんでした。
ユースケースから漏れていた
ここまでのやり取りで、折り戸の検討段階での要求仕様に『給湯器最高温度でお湯漏れをしないこと』が無かったことがはっきりしたのです。普通に考えれば、給湯器の最高温度のお湯をユニットバス内で使用することは容易に想像できます。
メーカーならなおのこと想定すべきケースです。 なお、そのメーカーは一般的には一流メーカーと言われています。きっと、皆さんもテレビのコマーシャル等で聞いたことがあるでしょう。
そのメーカーの品質基準が甘いこともさることながら、問題提起に対する対応もお粗末で、思わずサービスエンジニアに「お宅はアジアの何処ぞの二流メーカーなの?」、「風呂のことは何も分からない素人に、ここまでバカにされて悔しくないのか?悔しかったらもっとまともなものを作ったらどうなの?」と言ってしまいました。
利用シーンと設計基準
似たケースです。
改築から暫く遅れて給湯器も交換しました。リモコンも同時交換です。折り戸の水漏れを経験していたので、リモコンの耐水性を取扱説明書で確認しました。
案の定というか、浴室内に設置するのに、取説には『一応防水仕様だが、なるべくお湯・水は掛けないように!』と記載がありました。
浴室内の壁は石鹸成分が付着しやすいため、カビ対策としてもお湯で洗い流すのが常識だと思っていました。それにも関わらず、リモコンにお湯を掛けないように、と注意書きがあるのです。この設計基準にも疑問符がたくさん付いています。 一般の方をユーザーとした製品を開発する場合、製品の使用形態(ユースケース)について、もっとユーザー寄りに検討すべきではないでしょうか?
組込みエンジニアとして考えること
ぜひ、あなたも組込み開発エンジニアという衣を脱いで、素直に一般ユーザーとして自分が作る製品を見てみてください。そして、あなたが現在開発している組込み製品は、自分がユーザーとして満足できる製品に仕上がっているかを判断してみてください。組込み開発では、製品を利用するエンドユーザーからの意見や要望を聞く機会は少ないかもしれませんが、だからこそ、組込み開発エンジニアはエンドユーザーの立場を想像し、製品を作ることが重要なのだど思います。
ちなみに、当社では組込み開発を始め、様々なシステム開発の相談、設計、実装を全国対応で行なっています。無料相談も実施していますので、お気軽にご相談ください。